矜持

2010年12月21日の読売新聞社会欄に、検察改革について小関智弘さんがコメントしていました。作家としての小関さんを私は存じ上げていなかったのですが、「職人が持つべき矜持のかけらも感じられない」という表現が目に留まり、その記事を持ち歩いたまま、東京とSFを2往復してしまいました。


職人が持つべき矜持のとは、という問いに対し、小関氏は
「本当の職人は目に見えないところでも丁寧な仕事をしている。ごまかしや手抜きを恥と思うのが職人の気質だ。」と回答していました。

この記事は大阪地検特捜部の不祥事に関するインタビュー記事なのですが、「職人」としての心がけはそれがサラリーマンでも自営業者でも仕事をする人間であれば誰にでも適用可能だと思いましたし、「矜持」は一人の人間として大切なプリンシプルだと思ったのです。


さてこの「矜持」を英語で何と言うのか、まずはオンライン辞書を引いてみましたが、エントリーがありませんでした。やはりとても日本的な概念なのでしょうか。

手元の広辞苑(第四版)には「自分の能力を信じて抱く誇り(正しくは矜恃」と定義されていました。

pride(誇り)
dignity(尊厳)
integrity (高潔)

矜持にはこの3つが重なる部分とでも言いたいニュアンスがあります。

しかも小関氏のいう「職人」は英語の professional がぴったりきます。
Professional には、それを生業にする人(=それで収入を得ている人)という意味がありますが、「プロ」や「匠(maestro)」に通じる意味もあります。


矜持とは integrity に裏打ちされた pride なのですが、一つの英単語で良い表せるものなのでしょうか?

東京にある我が家の実家では恒例になっている正月三箇日の箱根駅伝
今年も感動のレースが繰り広げられました。
三年連続優勝を狙う東洋と駅伝三冠を狙う早稲田の対決が見ものでした。

結果的には往路を制し、8区から10区まで3人の区間賞を出しながらも、6区で首位を奪回した早稲田に追いつくことができなかった東洋。そして抜きつ抜かれつを繰り返し、ゴール直前でコースを間違えた選手も出たシード権争い。無念の繰上げスタートとなった日大。
様々なドラマが繰り広げられた今年のレースでした。


試合後のインタビューでは皆が異口同音に、「元気をもらった」「勇気をもらった」と述べていました。
さてこの「元気をもらう」をどう英訳するかが今年最初の私の課題です。


まず堅実な訳例としては

It lifted my spirit.

I was uplifted.
I felt uplifted.


また
I was touched.
I was moved.

という訳も考えられますが、「感動した」というニュアンスが強くなります。


そう考えていくと、そもそも「元気をもらう」とはどういう意味なのだろうと考えてしまいます。


「勇気付けられた」という意味であれば、
I was encouraged.
という表現もあります。でもこのencouragedは「頑張ってやりなさい。」と背中を押されたという感じがします。


日本語の「元気をもらった」には、その頑張る姿を見て感動したという意味があるように思えます。
だとすると touched や moved でも、妥当のような気がします。


年頭から歯切れの悪い解説になってしまいましたが、今年も悩む一年になりそうです。
駅伝を観て元気をもらったか、ネイティブスピーカーに聞いてみたいです。