どっちに転んでも不利な時

昨年のクリスマスの日、サンフランシスコ動物園で不可思議な事件が起きた。
閉園間際に動物園に入ったらしいティーンエイジャー3人が、檻から逃げ出したトラに襲われ、一人は死亡、他の2人が重症を負ったという事件だ。

普通にしていれば、トラが逃げることができないよう幅広い堀も高い柵も設けられている檻である。
どうやってトラが檻から出ることができたのかはこの事件の謎の一つで、この少年達がいたずらしようとして檻に入ったのではないかという噂もある。事情聴取に協力しない少年達。檻から逃げたトラは他の人には目もくれず、この少年達だけを数百メートルも追いかけていったという。何か匂う。

それはさておいて、、、。

問題は、救急車の出動である。
トラに襲われた少年達の一人が911アメリカの救急番号)に電話した。待てど暮らせど救急車は来ない。また911に電話した。電話している少年は、パニック状態だ。
「早く救急車をよこしてくれ。何してるんだ。早く早く。」

ところが911受付は、「トラが捕獲されない限り、救急隊は出動できない。救急隊が襲われたら誰も救助できない。出動許可が出てからでなければダメだ。」と応答している。
「何言ってるんだ。早く救急車を。」と少年。
「落ち着いて。今の状態では救急隊は出動できないのです。今は現場にいるあなたしか何かできる人はいないのです。だから落ち着いて。」と911受付。

救急車の出動が遅れたためにこの少年は死亡したという批判が起きている。

救急車の出動が遅れたのは事実だ。
けれどもトラが野放しになっている状態で、出動した方がよかったのだろうか?
もしすぐに出動して、救急隊に犠牲者が出ていたら、「不適切な状況判断」ということでそれこそ批判されていたかもしれない。

悪天候の中、遭難した登山者を救出する捜索隊。
台風が来ているのに注意を無視して海に出ておぼれた人の捜索隊。
暴風雨の中、少しでも早く停電を復旧させようと出動して、倒木の下敷きになった電気会社の作業員。

社会インフラを支える人達や公共事業に携わる人達は、自分達の身の安全と自分達に課された使命の狭間に陥ることが少なくないだろう。
何事もなければ「ご苦労様」の一言すらかけてもらえないかもしれない立場にありながら、もし何かあれば途端に槍玉に上がる。

こういう時の対処の仕方は、平常時にこそ決めておかなければならない。