日本語の原文を解析する その1

日本語と英語は、その構造が全く異なる。
だから、日本文はそのままでは英訳できない場合が多々ある。
英語が苦手、聞く方は何とかわかるけど話すのはさっぱり、という人は少なくないが、日本語はそのままでは英訳できないという点にその原因があるのだ。

例えば、日経ビジネス1月7日号巻末の「終わらない話」竹中平蔵氏の記事を例に取ってみよう。
日本語で書かれた文としては申し分ない記事である。
あくまでも、いかに日本語と英語が異なるかを説明するために引用した例文である。

(第3カラム3行目)
経済を正常化したうえで、次にやるべきは政府が自分の身を削ることだ。
このところ議論が賑やかな「霞ヶ関埋蔵金」騒ぎ。
政府系金融機関自治体向け貸し出しの原資となる財政融資資金特別会計をはじめ、特別会計に眠る余剰資金を取り崩すといった当たり前の政策手順が踏めていないことを白日の下にさらした。

英文では、主語と述語が必須要素である。

第1文
経済を正常化したうえで、次にやるべきは政府が自分の身を削ることだ。
「経済を」が目的語、「正常化した」が述語だとすると、この節の主語は?
「やる」が述語だとすると、その主語は?
「政府が」が主語、「(自身の)身を」が目的語、「削る」が述語で、この部分は文を構成する要素が揃っている。

この第1文は、
政府が経済を正常化したうえで、次に政府がやるべき(こと)は、政府が自分の身を削ることだ。
と解釈できる。

さらに
「身を削る」は比喩である。比喩は要注意である。
文化が異なっても同じ比喩が使われる場合もあるが、比喩は文化を跨ぐと通用しない場合もある。
ここでいう「身を削る」は何を意味しているのか。「身を削る」は「骨身を削る」と同じか違うか?

第2文
埋蔵金」は単に「埋もれた財宝」という意味を持つのみならず、「その所在が知られていない」「隠された」というニュアンスもある。「宝探し」の対象だ。そんなニュアンスがでるような適訳は何だろうか?

第3文
一番手強い文だ。

政府系金融機関自治体向け貸し出しの原資となる財政融資資金特別会計をはじめ、特別会計に眠る余剰資金を取り崩すといった当たり前の政策手順が踏めていないことを白日の下にさらした。

「取り崩す」という述語に対応する主語は?
「(手順が)踏めていない」に対応する主語は?
「さらした」という述語に対応する主語は?
「政策手順が」は「が」という助詞が使われているにも拘わらず、これは主語ではないことは明らかだ。これは目的語になるので、本来であれば「が」ではなく「を」であるべきなのだろうが、この「が」を「を」に置き換えると、日本語が不自然になるからおもしろい。