バイリンガルプロジェクトの管理 How to manage a bilingual projec

今までも何回か、プロジェクト担当通訳をやったことがあるけれど、プロジェクトマネージャの立場ではなかった。今回はプロジェクトマネージャにアドバイスをする立場でもある関係上、プロジェクトにおけるコミュニケーションの進め方について改めて考える機会を得た。


このプロジェクトはある通信事業者を顧客とするシステム構築案件だ。
システムインテグレータ(SI)とアプリの販社は日本企業だが、製品はイギリス製品である。
日本の販社は英語が苦手であり、かつ通信業界のシステム構築経験が浅い。
SIは大手で経験も豊富だが、この製品を扱うのは初めて。
メーカーの日本法人は製品サポートやカスタマサポート部門が充実しておらず、通信業界の経験もない。
情報のやり取りは、顧客⇔CI⇔販社⇔メーカーと直列つなぎになっており、情報伝達に時間がかかるのみならず、「伝達ゲーム」により的を得た回答が返ってこないという問題点もあった。


このプロジェクトで私が得た教訓は、プロジェクト用語集が必須だということだ。
システム構築、通信業界、事業者、NWシステム、アプリ等どれをとっても各々の専門用語や固有名詞、隠語がたくさんある。プロジェクト関係者がこの「プロジェクト言語」を共通に喋らない限り、プロジェクトは円滑に進まないのである。

今回のプロジェクトで文書の翻訳が必要になるかどうか不明だが、翻訳を外注する際にはこの用語集が活躍する。さもないと各翻訳者の知識経験に依存することになり、プロジェクトとの整合性が取れなくなる可能性がある。

プロジェクト用語集があれば、翻訳DBやグローバル変換を利用して、専門用語だけは効率よく、一貫性を持って訳すことができる。


ただし、プロジェクト用語集を一から作成するにはかなりの時間と労力がかかる。どの用語を拾い出すかの判断もあるし、対応する英語を探すという手間もかかる。翻訳というより対照表の作成になるのだから。また用語集というからには、単なる単語やフレーズの対照表を作るだけではなく、その用語の意味や使い方も解説しなければならない。ちょっとした「辞書」の作成と同じである。


私がこのプロジェクトに携わってからまだ2ヶ月。週次の定例電話会議の通訳をする程度だったのでプロジェクトの全貌は見えていない。しかしプロジェクト用語集を作成するにあたり、提案招請書(RFP)を熟読した。そしてそこから「用語」と思われる言葉や表現を抜粋したのである。わずか40ページのRFPから拾い出した用語は600に上った。でもこれは初めの一歩で、これから順次、追加されていく用語が増えていくことだろう。


今回のプロジェクトはうまく意志伝達ができていなかったことが進捗の遅れの原因となっている。それを目の当たりにして、初めてプロジェクト関係者が「同じ言語を喋る」ことの重要性を感じた。
このような用語集は社内辞書としても活用できるはずだし、社内の英語研修にも活用できるはずだと思っている。