英語的発想を試してみよう! その3 

前回、前々回はお試し版だったので、比較的シンプルな文を例題に解説しました。
今回は、もう少し、日常のビジネスに近い文を例に、S+V+Oから組み立てる英作文テクニックを練習してみましょう。


例題:
アップルの携帯情報端末iPad」を、企業が導入する動きが活発になってきた。
業務効率化やコスト削減、新サービスの実現などに力を発揮し始めている。


ステップ1:主語を探す。
助詞の「は」や「が」が主語を表わす助詞とされていますが、この文にはそれがありません。
主語が省略されている文です。


ステップ2:述語を探す。
発揮し始めている」あたりが述語だと察せられます。
日本語と英語では、自動詞/他動詞の区別が異なりますし、かつ「力を発揮する」という日本語では目的語+動詞のように見える言葉が英語では一つの動詞として存在するかも知れませんので、「力を発揮し始めている」を述語として考えましょう。

ここで、「力を発揮し始めている」は「力を発揮する」と「〜し始めている」に分けられることに気が付いたでしょうか?
英訳する際には、to begin to 力を発揮する(to 不定詞)/for 力を発揮する(動名詞)という構文が想定できます。


ステップ3:述語に呼応する主語を探す。
もし述語が「力を発揮する」であるならば、それに対応する主語は何でしょう?
このセンテンスには主語が省略されていましたよね。覚えていますか?
そう、主語は前文の「iPod」です。

iPodは力を発揮し始めている」というのが、この文の骨格になるのです。


ステップ4:英訳しやすい構文に日本語文を変換する。
iPodは+力を発揮し始めている+業務効率化やコスト削減、新サービスの実現などに

ここまで来ると、iPod begin to 力を発揮する to 実現 of 業務効率化やコスト削減、新サービス という英文の文型が見えてきませんか?


さて、ここからが初級レベルと中級レベルの違いです。

ステップ5:「力を発揮する」をどう訳す?
発揮するを辞書で引いて見るとto bring out と出ていました。確かにto bring out は和訳してみると「〜を引き出す」という意味になりそうです。
日⇒英⇒日による確認が大事ですよ!
力はpowerだから、to bring out power と直訳的発想をたどると、このような訳文が出来上がります。
iPod begin to bring out power to 実現 of 業務効率化やコスト削減、新サービス


「力を発揮する」で辞書を引いて見ると、to make a significant contribution という訳がありました。
「顕著な貢献をする」という意味です。力と言う単語も発揮するという単語も使われていませんので意訳と言えますが、意訳でも良いのです。いいえ、意訳の方が良いと言っても過言ではありません。
他にどんな意訳の仕方があるでしょうか? いくつか考えてみてください。
とりあえず、今はこの状態で一旦保留にしておきましょう。


ステップ6:「業務効率化やコスト削減、新サービス」をどう訳す?
業務効率化は「業務を効率化する」、コスト削減は「コストを削減する」のように分解すると、新サービスはどうなるでしょう?「新サービスを〜する」の「〜する」の部分が欠けていますね。
そこで、業務効率化+コスト削減+新サービスという3つの要素の実現、と当初解釈していましたが、この実現は新サービスの実現と考えた方がよさそうです。

先ほどのたたき台構文を修正しましょう。

iPod begin to bring out power for 業務効率化, コスト削減, and 新サービスの実現

という文になります。


ステップ7:業務効率化
日本語で頻用されるこの「〜化」が実は曲者で、直訳すると「to make(対象物)〜」となります。
このルールに沿って訳すと、業務効率化は to make the business operations more efficient と訳せます。
この訳は正確な英訳ではありますが、何ともまどろこしい表現です。

英語は単純明快、シンプル、簡潔が特徴ですので、推敲してみましょう。

to make the business operations more efficientは和訳すると、「業務をより効率良くすること」となります。
これを英訳すると、すなわち「〜化」に拘らなければ、more efficient business operations(より効率のよい業務) や business operations efficiency(業務効率) と表現することも可能です。


ここが、英語的発想の大事なポイントです。
原文に拘らず、要するにどういう意味なのかを考えるという習慣が、英語的発想を促してくれます。

もう一つ大事なことは、節を句に変えて、簡潔化を図るということ。
いかに少ない語数で英語化することができるか。
これが、英語っぽい表現にするための近道なのです。


ステップ8:コスト削減
ステップ7でやや脱線しましたが、同じような考え方を適用すると、「コスト削減」はto reduce the cost to cut cost もしくは cost reduction と表現することができます。


ステップ9:新サービスの実現
実現するをto realize と訳して、to realize new service としましたか?
決して誤訳ではありませんので、初級レベルとしては合格です。
中級レベルなら、realizeよりももっとサービスに適した動詞を考えてみませんか?
to create を英語ではサービスとよく組み合わせて使います。
新サービスの展開、新サービスを市場に出すというニュアンスであれば to launch が使えます。

英語は、語彙が豊富で、単語数が一番多い言語と言われています。
日本語のように副詞+動詞でニュアンスを出そうとする言語に対し、英語にはその副詞+動詞のニュアンスを持つ動詞が存在する確率が高いのです。
日本語を直訳して安心してしまわずに、他にどんな言い方があるかも考えてみる。これが中級レベルです。

新サービスの実現は、 creation of new service や new service creation、さらには new services と訳すことができます。


ステップ10
iPod begin to bring out power to make the business operations more efficient, to reduce cost, and to create new service.
とりあえず、英文を作ることができました。

推敲のヒント:動詞の時制と主語との呼応をチェックする。
iPod は三人称単数形なので、現在形ならば begins となります。もし現在完了形にして既にこの動向が始まっているというニュアンスを追加したい場合には has begun にすると良いでしょう。動詞によっては現在形で使うのが普通で現在完了形だと違和感がある動詞もありますが、to begin は完了形と相性の良い動詞です。

上記の文を何度か音読してみましょう。to bring out power が何となく変ではありませんか?
iPod has begun to make the business operations more efficient, to reduce cost, and to create new services.
思い切って、to bring out power を削除してみました。
上記の文を和訳すると「iPodは業務を寄り効率化し、コストを削減し、新サービスを創出し始めた。」となります。
原文の「業務効率化やコスト削減、新サービスの実現などに力を発揮し始めている」と比較すると、当たらずとも遠からずです。

厳密に言うと、iPod自身が業務効率やコスト削減、新サービスの創出を行っているのか、その一助となっているのかの違いがあります。

「一助となっている」という部分にフォーカスし、「力を発揮している」という表現に拘らないで、原文の意味を考えて見ましょう。

iPod has begun to be used to make the business operations more efficient, to reduce cost, and to create new services.
iPod has been used to make the business operations more efficient, to reduce cost, and to create new services.
iPod has been used for business operations efficiency, cost reduction, and new service creation.

創出されたサービスは新しいサービスであることは当然ですので、new は冗長ですね。

iPod has become useful for business operations efficiency, cost reduction, and service creation.
「力を発揮する」を「役に立つ」に置き換えると共に、状態ではなく変化(動作)を表わすbecome に変えました。
業務効率化、コスト削減、サービス創出と名詞で揃えたことで、この文をより英語っぽくしています。


ここまで来ると、後は好みの問題であり、どこまで意訳が許されるかですが、
iPod has become a powerful business tool for operational efficiency, cost reduction, and service creation.
文脈から判断して、「力を発揮し始めた」を「有効なビジネス用のツールとなってきた」と意訳・超訳してみました。

上級レベルになると、主語のiPodを借りてきた前文と組み合わせて一つの文にした方がよいかなども考えることになるのですが、その解説はまたの機会にしましょう。