プレゼンテーションの失敗

9月26日の「プレゼンテーションの秘訣」は多くの方に読んで頂きました。ありがとうございます。

読んでみて、なるほどというよりは、まあ当然の事だと思われた方のほうが多かったのではないかと思いますが、その当たり前のことがなかなかできていないというのが現状です。

先日、おもしろい(興味深い)経験をしたので共有したいと思います。


あるメーカーへ日本の顧客が訪問した時のことです。
アジェンダとしては、まず日本側からプレゼンテーションがあり、その次に3種類の製品・ソリューションのプレゼンテーションがメーカー側から行われるという典型的な構成だったのです。

一番バッターの日本側からのプレゼンは、組織構成の説明、訪問者が所属する部署の業務と責任範囲、現在計画しているプロジェクトの概要の説明などを含む約20枚弱のスライドでした。

続く、メーカー側からのプレゼンテーションは製品開発の考え方、新製品(設計中)の概要が中心で、ロードマップ(開発計画)の詳細にまでは踏み込むほどではありませんでした。


そこで訪問者からのコメント。
「このプレゼンテーションは何を目的にしているのですか?」




?????
通訳をしていた私を含め、メーカー側出席者の目が点になりました。


「さっきもプレゼンで説明したようにこのシステム構築は2011年ですよ。もう間もなく開発開始だということは想像できるでしょう。せっかく御社の製品でこのシステムを構築すべくチャンスを与えようと考えているのに、プレゼンしても何も具体的な質問は出ないし、どのような機能が必要なのかも聞かれないし、そちらかのプレゼンだってその製品をこのプロジェクトのどの部分に適用すればよいのかという具体的な提案がでるわけでもないし。私は今日、ここへ何をしに来ているのかわかっているのですか。」


何か手応えのないセッションだとは感じていましたが、訪問の主旨が事前にメーカーに全然伝わっていなかった、ということがここで明らかになったのです。

2011年度中(2012年3月目途)のプロジェクトだとしても、この顧客の商用移行前検証期間を考えると、すぐにでもアーキテクチャを決め、設計開始しないと来年度中のカットオーバーには間に合わない、ということは部外者の私にも明白です。


どこかにコミュニケーションミスがあったのですが、ここで言いたいのは、なぜ日本側がプレゼンをする際にその目的を明示しなかったのかということ。

メーカーの能力を試していたのでしょうか? 試してNGを出すというのも一つの考え方ですが、このメーカーの製品を採用したいと思っているのであれば、メーカーが気が付いていないことを気が付くまで黙って待っていてメリットがあるのでしょうか?相手が気が付くまで待っていれば、その分時間が無駄になり、結局はそのツケが調達する自分達に回ってくるのではないでしょうか?

しかもこのプレゼン時にはコーポレートスポンサーと呼ばれる顧客企業担当役員が同席していたのです。
このメーカーの製品を採用したいという意図があったのであれば、プレゼンの最初に、

「このプレゼンの目的は、来る2011年度の開発プロジェクトを紹介するものです。御社からは積極的な問い合わせがなく、このままだと間もなく他メーカーで調達が決まってしまうというところまで来ています。最後のチャンスを与えるために今日は来ています。」

というイントロがあったら、役員も担当営業も製品開発担当マネージャーも、プレゼンに対する意識が変わっていたことでしょう。


相手を試すのが目的であれば別ですが、プレゼンテーションはその目的を最初に明確にしておくこと、両者の意識あわせをしっかりしておくことが、効果的かつ効率的なコミュニケーションに通じると思います。