機械翻訳を使いこなそう講座 (1) 

最近は機械翻訳(自動翻訳)を利用する人達も多いのではないかと思います。
けれども、機能や利便性が改善されて来てはいるものの、機械翻訳の出力をそのまま鵜呑みにしてつかうにはまだまだリスクが伴います。

今日は、機械翻訳に伴う問題を分析しながら、機械翻訳が活躍できるような使い方を検討して行きたいと思います。


次の文は、添削を依頼された英文です。

<英文>
The other day, how is it about the following percussion?
When advancing order to your company, I am pleased if you can reply earlier.
Is a reply got by 1/22 (Sun.) ?


この文章を見た瞬間に、文字通り目が点になってしまい、機械翻訳したことが一目でわかります。

まずなぜ機械翻訳したことがわかるのかを解説してみましょう。


(1) 第1文の the other dayが修飾している対象が見つかりません。the other dayは先日とか過日という意味なので、呼応する動詞は過去形のはずです。


(2) how is it が現在進行形の構文の一部ではないので、ここはhow is itが「いかがですか?」という意味の独立した句になっています。そうすると、目的語らしき the following percussion がつながらなくなります。How about the following percussion 「以下のパーカッションはいかがですか?」であれば、意味は横に置いておくとして構文としては成り立ちます。


(3) the following percussion のパーカッションがビジネスメールの文脈にしてはあまりにも唐突です。何かの誤訳ではないかという疑問が湧いてきます。


(4) 第2文の when advancing (the) order to your company では、動詞のadvancingに主語がないため、この句に続く節の主語と同じであることが想定されます。その場合、主語はI。即ち、When I advance the order to your company ということになります。 発注「処理」を進めるという意味だろうということは容易に想像が付きますが、to advance the order では「順番に従って先に進める」というような意味になってしまいます。


(5) I am pleased if you can reply earlier. の early は、「速い」ではなく「早い」という意味です。この場合の「速い」はsoon。 またifを使った仮定法なのでI am ではなく I will be の方が自然です。


(6) Is a reply got by 1/22? 普通文に直してみると A reply is got by 1/22 となり、状態を表わすis got とby 1/22で示唆される締め切りを持った未来の状態とが合致しません。 


【 英訳した文を再度、和訳してその妥当性を確認する 】

機械翻訳の助力を得て英訳した場合には、一度それを日本語に戻してみると、英訳の妥当性をざっくりとではありますが、確認することができます。(あくまでもざっくりとであることに注意!)

The other day, how is it about the following percussion?
When advancing order to your company, I am pleased if you can reply earlier.
Is a reply got by 1/22 (Sun.) ?

先日、どのようにそれは次のパーカッションについてのものなのですか?
以前に返信できるかどうか、あなたの会社に順序を進めるときに、私はうれしく思います。
返信は1 / 22(日)によって得られたのですか?

第1文は、この構文が素直に日本語に訳されています。もちろん、意図した意味にはなっていませんが。
第2文は、上記(4)で解説した通り、「advancing the order」は「順序を進める」と訳され、to your companyは the order to your company ではなく、advancing the orderを訳した後の残りの部分として、「あなたの会社へ」と他との連動なく解釈されてしまいました。 しかも副詞と判断された earlier は、「過去の」「以前の」と解釈されています。
第3文は受身形になっているため、by が1月22日までにではなく、got by 「〜によって得た」と解釈されています。


今回、機械翻訳にかけた元の日本語文は以下のものでした。
 先般、以下の打診について如何でしょうか?
 御社への発注を進める上で、お早めにご回答頂ければ幸いです。
ご回答を1/22(日)までに頂けますでしょうか?


打診は、医師による診察法の一つと判断され、percussionと機械翻訳されたようですね。



【 英訳しやすい日本語文に直してみよう 】

それでは機械翻訳にかける前の日本語文に少し手を加えて修正してみましょう。

この場合の「打診」は「問い合わせ」という意味です。「提案」かも知れません。
きっと、筆者は先般、問い合わせをしたのでしょう。
「以下の」が付いているということは、この3行の後に、問い合わせした時の文言が添付されていなければなりません。


英語の構文はS+V+Oが基本形になりますので、それを意識して、日本語で省略されている言葉を補っていきます。

先般、以下の打診について如何でしょうか?

先般の(私からの)問い合わせについて、(あなたからの)回答はいかがですか?

「いかがですか?」は英語でもhow is itとしか訳しようがない特殊表現で、目的語のitが何を指すのかが明らかな場合に使う口語表現です。文書(文語体)には不向きは表現ですので別な言い方に置き換えたほうが英訳しやすくなります。


私が先日(あなたに)送った問い合わせについて、あなたからの回答はできていますか?
About the question I sent you the other day, is your response ready?
先般の(私からの)問い合わせについて、(あなたは)何か質問はありますか?
About the question I sent you the other day, do you have any questions?



 御社への発注を進める上で、お早めにご回答頂ければ幸いです。

御社への発注手続きを進めるために、(あなたに)お早めにご回答頂ければ(私は)幸いです。
To commence ordering your company, I will be pleased if you can respond soon.
To advance with the ordering process, please respond as soon as possible.
To process the order to your company, please respond soon.

御社への発注手続きを進めるために、(あなたからの)回答がすぐに必要です。
For the order to your company to progress I need your response soon.


 ご回答を1/22(日)までに頂けますでしょうか?
(あなたの)ご回答を1/22(日曜日)までに私に頂けますか?
May I have your response by January 22 (Sunday)?
(あなたの)ご回答を1/22(日曜日)までに(あなたは)送って頂けますか?
Would you send me your response by January 22 (Sunday)?



このように、日本語を英訳しやすいかつ自分の意図することを直截的に表現した文に作りかえれば、機械翻訳のお世話にならずとも自力で英訳できそうではないですか?


【 再度、英語にしやすく書き直した日本語文で機械翻訳にかけてみる】


 先日(私が)お送りした問い合わせについて、(あなたは)何か質問がありますか?

 御社への発注を処理するために、(私は)できるだけ早く(あなたからの)回答が必要です。
 1月22日(日曜日)までに、回答を送ってください。


Questions about the other day I was sent, do you have any questions?
In order to process your orders, I need answers from you as soon as possible.
January 22 (Sunday) before, please send an answer.


第2文はうまく英訳されてきましたが、第1文と第3文は、原文を正しく理解していませんね。
これは、機械翻訳に内蔵されるロジックはアルゴリズムの問題だと思われます。


Do you have any questions about the question I sent you the other day? であれば
私が先日送った質問について何か質問がおありですか?
とただしく和訳される機械翻訳サイトでしたので、日本語文にもう一捻り加えてみました。


私が先日送ったメールについて何か質問がありますか? という原文は
Do you have any questions about the recent letter from me? 
と英訳されました。メールをletterと訳してしまった部分に関しては、簡単にmailに修正することが可能です。

私が先日送った提案について何か問題がありますか? 
だったらどうでしょう?
Is there anything wrong with the recent proposal I sent?
この文だと、提案内容に不備があるというニュアンスになってしまい、不明な点や合意できない点があるかという意図(Do you have any problems)から離れてしまいます。

私が先日送った提案について何か問題がありますか? 
という原文は
Do you have any questions about the recent proposal I sent?
と英訳されてきました。 これなら使えます。


第3文では「1月22日までに」がうまく理解されなかったようなので、
Please respond by January 22 を原文にして、和訳してみました。すると
1月22日で答えを送ってください。
という和訳が出力されました。どうもbyは手段のbyしか認識されていないようです。

それなら
Please respond before January 22.
はどうでしょう?
1月22日の前に答えを送ってください。
う〜ん、やっぱりダメですね。

期限や締め切りを意味するbyはこの機械翻訳では対応できない、という結論になってしまいました。

ここで諦めてはいけません。
別な機械翻訳を試して見ましょう。

1月22日までにお返事ください。

Please reply by January 22.
と翻訳されてきました。 このサイトは正しく期限のbyを理解しています。

ついでに
先日お送りした問い合わせについて何か質問はありますか? は
Are there any questions about the inquiry sent the other day?
と英訳されてきました。 すばらしい!

以前、この自動翻訳サイトの日英翻訳機能はあまりにも悲惨な状態で、退屈しのぎに爆笑・苦笑するための余興にしかならないレベルでしたが、かなり改善されたのかも知れません。


【 まとめ 】

機械翻訳、自動翻訳は、こと和文英訳に関してはまだその信頼性は低く、出力された英文をそのまま使うことは危険です。
けれども、一次訳として使う分には、自分で添削・校正するためのヒントをたくさん提供してくれます。

機械翻訳をうまく使うためには、まず元の日本語を、英訳しやすい不自然な日本語に置き換えます。
ここでいう不自然なというのは、日本語では省略されている動作の主体を補ったり、単数・複数の区別や時制を意識したりすることです。

英訳しやすいはずの日本語に置き換えた文で、再度、機械翻訳にかけてみます。
何となく腑に落ちない、もしくは納得できない訳文が出力されたら、別な機械翻訳サイトを試して見ましょう。
機械翻訳サイトにも一長一短ありますので、特定のサイトがいつも優れいてるというわけではありません。
いくつか試してみることで、一次訳(サンプル訳)が増えれば、それだけ加筆修正するヒントが増えるということでもあります。

機械翻訳で得た一次訳をもう一度自分の目で確かめて、他に修正すべき点や改良できる点がないかどうか確認して、完成というということになります。