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先日、ご近所の日系人のご家族(Ohshiroさんご一家)と一緒にお節料理を食べていた時のこと。
お節料理の一品一品には意味が込められているという話題になり、Mrs. Ohshiroが息子さんに
「マメな人間になってね。」
と言いながら黒豆を取り分けてあげました。
マメな人間かぁ。この時のマメって英語でなんというのかしら。
こういう何でもない普通の表現がなかなか英語では出てこない、というのがいつもの私の悩みです。
マメを広辞苑(第四版)で引いてみました。
何と、マメは「忠実」と書くのですね。知りませんでした。(もしくは忘れていました、かな?)
1)まごころがあること。真面目、誠実、本気。(こんな意味があるとは知りませんでした。「忠実」と書いて「マメ」と読ませるくらいですから、これが第一義の意味なのでしょう。
2)苦労をいとわずよく勤め働くこと。(Mrs.Ohshiroはこの意味で使っていたのですね。)
3)生活の役に立つこと。実用的。(この意味で「マメ」をあまり使ったことがないような気がします。)
4) 体の丈夫なこと。達者、息災。(昔は「マメで暮らす」と言う表現を聞いたことがありますが、最近では全然耳にしなくなりました。)
真心、誠実:sincerity, integrity, true heart
「マメ(誠実な真心のある)人間になってね。」はさしずめ
I hope you will become a man of integrity.
I hope you will be a man of sincerity.
というところでしょうか。true heartは何となく大げさで普通の会話にはあまり登場しないかも知れません。
苦労をいとわずよく勤め働くこと:
この場合の「苦労」はhardshipやdifficultyではなく、hard work、effortという意味ではないでしょうか。
苦労をいとわず = 努力を惜しまず と解釈できます。
ところが hardship(苦境、困窮)を使ってしまうと間違ったニュアンスになってしまうような気がします。
I hope you will become a painstaking hard worker who spares no effort.
達者や息災はどちらもhealthy, of good health
I hope you will enjoy your good health.
とまあ、こんな風に英訳できるわけですが、なぜこんな簡単な表現がスラスラ訳せないかというと、もちろん私の英語力に由来するところも多いわけですが、それ以外にこういう表現を耳にすることがないという現実があります。
①のBe a man of integrityはとてもアメリカらしい表現なのですけれども、相手の健康や長寿を祈るという習慣に私の30年間の在米生活で出会った記憶がないのです。ましてや「苦労をいとわずよく働きなさい」という表現においては、ホワイトカラー社会にいるせいかも知れませんが、全く耳にすることはないのです。勤勉てアメリカ社会では美徳にはならないのかしら? それとも「苦労をいとわず努力するのは当たり前」ということ?
年末年始に頂くグリーティングカードに
I wish you a prosperous year.
と書いてあると、ああ、日本流の挨拶だなぁと思います。
決してそれが悪いということではなく、アメリカでは相手に対してprosperous yearが来ることを祈る文化がないのではないかということなのです。それと同じで、アメリカのクリスマスカードにはjoyとかhappinessとかpeaceとかをお祈りしてくれる言葉で一杯なんです。
May the peace and joy of the season be yours through the New Year.
直訳:この季節の平和と喜びが来る年を通してあなたのものでありますように。
意訳:良いお年をお迎えください。
そう言えば数年前、年末年始返上であるシステム開発プロジェクトに係わっていた時、元旦に「初詣を兼ねてプロジェクトの成功を祈願に行こう」という日本側からの提案に「神頼みしなければならないほど、我々の実力は信用されていないのか」とイギリス人の開発者は不満げでした。
いつもの通りかなり脱線しましたが、日本語らしい表現に限ってうまく英訳できないのが私の悩みです。
日本語では何の抵抗もなくすんなり受け入れられる表現が、英語になった途端に「こんな言い方するかしら?」と自信が持てなくなるのです。
文法的にはあっている正しい表現も文化的にはあっていないということなのでしょうか。
いずれにしても通訳たるものいくら違和感を感じるとは言え、何とかターゲット言語に訳せなければならないわけなので私はいつも不安です。